コレクター (Page 3)
カフェで向かい合った席に座り、長樂は上機嫌でスマホを弄っているチズリを見ていた。
彼女が弄っているのは、長樂のスマホである。購入したばかりのケースを取り付けてもらっているのだ。先立ってチズリは自分のスマホにもケースを装着している。
「できましたよ」
「ありがとうございます」
手渡されたスマホにはしっかりとケースが取り付けられている。そのケースはチズリのものと色違いだ。
「思ったよりも混んでましたね」
長樂はスマホを鞄へ仕舞い、カフェの外へと視線を向けた。その先にはビルがある。ビルの入り口には幾つかパネルが立てられていた。ライトがキャラクターを象ったパネルを賑々しく照らしている。日が落ち始めているが、ビルには人の出入りが絶える様子がない。
「そうですね。……でも、驚きました。長樂さんが一緒にいてくれるなんて思わなかったから」
チズリがくすくす笑う。ともすれば冷たく見えてしまう整った顔立ちがそれだけで愛らしく見える。
「僕も驚きましたよ。……失礼かもしれませんけど、ちょっと印象と違ったので」
「そうなんですか?」
小首を傾げ、チズリは笑みを深める。
「じゃあ、どうしてまだ一緒にいてくれるんですか?」
「まあ、そうですね。ちょっと興味があったからです」
「興味って?」
「あんまりにもイメージと違うので」
長樂とチズリの接点はオンラインゲームだ。
そのゲームのイベントに二人一組で参加すると貰える特典欲しさにチズリに誘われ、長樂はイベントに参加した。
普段ゲームの中で持っていたチズリに対するイメージとあまりにかけ離れていたので、長樂は目当てのものを手に入れた後も誘われるままカフェに来ている。
単純に興味が湧いたのだ。
そして、幾らか会話を重ねた今でもイメージは乖離していく。
二人はそれからゲームの話をひとしきりした。次はゲーム内にこんなイベントが欲しい。こんな所を改善してほしいと、お互いに気ままに喋った。
気づけばとっぷりと日は暮れ、街灯が煌々と灯っている。イベントも終了したらしく、スタッフがパネルなどを片付けている様子がカフェから見えた。
「あの、長樂さん」
「なんでしょう」
冷たくなったコーヒーを飲み干し、長樂はその渋さに顔をしかめる。
「よかったら、近くのネカフェで、これ試しませんか?」
これ、とチズリが指し示したのは薄いカードで、そこには英数字を組み合わせたシリアルコードが記載されている。イベントの特典だ。
ちらちらとチズリは不安そうな目で長樂を見つめる。
顔をしかめたので誤解したのかもしれない。そう思った長樂は小さく笑って頷いた。
「いいですね。近くにあるかな」
スマホを鞄から出し、彼は近くにあるネットカフェを検索した。幸運なことにカフェからそう遠くない場所にネットカフェがある。しかも二人がプレイしているゲームに対応していた。
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