コレクター (Page 8)

 施錠されている自室に入ると、まず目に入るのは大きな棚である。そこにはタグを付けられた大小様々な品物が並べられていた。

「懐かしい」

 長樂について入ってきたチズリが棚の日記帳を見て声を上げる。

 日記帳にもタグがあった。そこには日付と住所が記されている。棚に収納されている全ての品に同じタグが付いているのだ。

「これこそ、記念品ね。だって勇気を出してあなたと結ばれたキッカケですもの」

「……」

 チズリから日記帳を受け取り、長樂は表面を撫でた。

 人が死ぬと肉体は何も残せない。

 だが、生前に触れていたものは遺る。

 これこそ誰かが生きていた証。

 生きていたという記念。

 長樂はそれを集めていた。

 棚にある物は全て、長樂が蒐集したコレクションなのだ。

 彼に執着する、今はチズリと名乗る女性もきっと何か遺すだろう。それは自らの愛情のために他者を殺めることすら厭わぬという希少性に富んだ、特別な品物のはずだ。

 長樂の目にはこの世に蠢く人々が、全てコレクションの対象としてしか映らない。

 死す時に何を遺すか。

 それが全てだ。

 あらゆる人間が生きていた証を遺し死んでいく。

 いや、死んで消えてしまうからこそ、誰もが証を遺そうとするのか。

 それを蒐集するため、長樂は人を知りたい。何を思い、何を遺すのか。それを知ることがコレクションの価値を高めてくれる。だからこそ長樂は誰にでも友愛を持って接する。それが病毒のように人の心を溶かし、長樂が近づくことを許すのだ。

 長樂は瞑目する。

 死者の遺したものを抱きながら。

 しかし、彼の中には死者への想いなど欠片も湧かない。

 長樂に近づこうとした。それだけの理由で自殺に偽装して殺され、入れ替わられた本物のチズリ。

 哀れとも、痛ましいとも長樂は感じない。

 コレクションが増えた。

 その事実だけが長樂を満たしていた。

 これからも、それは変わらないだろう。

(了)

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