ヒモの心得 (Page 2)

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太一は、働いていない。
外でも家の中でも、お金になる仕事はしていない。
生活費は全て楓に賄ってもらっているし、なんなら小遣いも楓からもらっている。
2人で暮らすこのマンションも、楓の名義で契約しているものだ。
端的に言えば、太一は「ヒモ」なのである。

2人は結婚していないが、太一は例えば「主夫」として家事に取り組んでいる訳でもなかった。
楓は大手企業に勤めて順調にキャリアを重ねているため収入には余裕がある。

それで定期的に家事代行を依頼しているから掃除の必要はないし、洗濯も全自動乾燥機付きなのでほとんど手間が要らない上、帰宅後や休日に楓が済ませている。

料理についても太一が何か調理するのは土日の朝食くらいで、それもごく簡単なものだけだ。
それ以外の食事は宅配サービスを使ったり簡単に済ませられるものを楓が買っておいたりしているので太一が作ったり考えたりする必要はない。

太一は本当に、正真正銘の「ヒモ」なのだ。

「ヒモ」になるために最も不要なものは、男のプライドだと太一は思う。
幼い頃から女に囲まれていた太一は、逆に男同士の競争関係に苦手意識を持っていた。
学校でも女子と仲良くなることの方が多く、その延長でよくモテた。

男からの悪口は絶えなかったが、太一は見栄やプライドよりも実益を重視するタイプだったので、自分を甘やかし何かと与えてくれるのは女たちであることに早々に気づいていた。

太一のスラリとした体躯と薄く整った顔立ちは昔から女ウケが抜群に良かった。
男からは「イケメンとは思わないけどなあ、女はお前みたいのが好きなんだよな」と正面から言われたことが何度もある。陰ではその3倍言われていただろうが、太一が気にしたことはない。

女に可愛がられる気持ちよさと、女に食わせてもらう楽な生活に比べれば、男に嫌われることなど何ほどのことでもない。

根っからのヒモ気質な太一だが、それでも楓ほど優秀な女性と出会えたことはラッキーだったと言える。
これまでも適当に働きながら何人かの女性の家に住み着いてきた太一だったが、ここまで安定して快適なヒモ生活が送れるのは楓が特別に優秀で賢い女性だからだ。

楓が勤める会社の近くの喫茶店で太一がバイトをしていて2人は知り合った。
それまでの多くの女性と同様、楓も太一の柔和な笑顔にあっさり絆された。

一度セックスした後は楓の方から熱心に口説かれ、あれよあれよという間に楓の家に住むことになった。

その時世話になっていた数人の女性を全部切る価値が楓にはあると太一は判断し、全て整理して楓の家に入ったのだった。

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