捕食者 (Page 4)
「先生、忘れてないでしょう?」
栞の唇がゆっくりと動く。ツヤツヤとした唇はあの時と同じようにリップのせいなのか。
「何だっけ」
白々しいと思ったが、ここは退くしかないと坂木は知らぬ振りをしたが、栞はそれを許さなかった。
「私、先生に会いたくて実習受けにきたんですよ。いじらしいでしょ」
自分で言っていたら世話ないな、と坂木は軽口を叩こうと思ったが、栞の顔を見てしまったら言えなかった。
強気の口調なくせに、頬を染めているなんて卑怯じゃないか。そう思ってしまったのだ。
誰もいないことを確認し、手を引いて準備室に閉じ込める。ここは殆ど坂木しか使用していない部屋だった。
念のために鍵をかければ、その音がやけに響く。
鍵をかけて振り向く前に後ろから抱きつかれた。
背中越しにあたる胸に坂木の喉が鳴った。
「先生」
額をくっつけてきたせいで坂木の背中が熱を帯びる。栞がすうっと息を吸い込み、ゆっくりと吐き出せば、その息が坂木の背を濡らすような気がして、焦る。
準備室に連れ込んだのは坂木だが、胸の柔らかさに我に返ったのだ。
「離れろ」
「先生、あの時のこと覚えてるんでしょ」
そう言って強く背を抱き締め、胸を押し当ててくる栞に坂木はもう一度離れるように説くも栞は言う事をきかなかった。
「先生、私あの日からずっと先生の事忘れられなかった」
抱きつく腕の力が強くなる。
「先生にどうしても会いたくて。会ったら、やっぱり好きって思ったの」
先生、お願い。
声にならないような訴えに、結局坂木は陥落した。
向き合って、髪を撫でれば、ん、と栞が唇を寄せてきたからそのまま重ねる。
「やっと先生とキスできた」
嬉しい、と栞のはにかむ仕草に坂木は仕方ないと思った。
「あれから誰かと付き合わなかったのか」
坂木の質問に栞は大きく目を開いた。
「今じゃないって言ったから、何年かしたら良いって言ってくれるって信じて誰とも付き合ってないし、先生以外好きになってない」
早口で捲し立て、そんなこと言うなんて酷いと唇を尖らす。
少しあざとさが見えるその仕草すら可愛く見えてしまい、なんて自分は単純なのだと坂木は苦笑した。
「笑うなんて酷い」
「悪かった。橘が可愛く見えたから」
「可愛い? 可愛いと、笑うの?」
栞は不安そうに坂木を見つめ唇を結び、考えるように黙った後ゆっくりと口を開いた。
「・・・・・・先生、まだ子供だと、思ってるの」
栞の震える声にそんなことないと宥めつつ、耳元に口を寄せた。
「子供ならこんなことしない。ただ、ここじゃ最後まで出来ないぞ」
坂木がコンドームの持ち合わせがないことを告げれば、栞は悔しそうに唇を結ぶ。
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