女王様の戯れ

・作

学園の図書館で、下僕扱いの幼馴染と受験勉強をするお嬢様。すぐに飽きてしまったお嬢様は、勉強を回避するためちょっとしたイタズラを思いついて…。マゾペットの優等生は、踏まれても蹴られても、大好きなご主人様にメロメロ。

「…様…お嬢様!」

ぽんぽんと肩を叩かれて、私は欠伸まじりに返事をしました。

「ふぁ…何ですの?」

「失礼ですが、聞いていらっしゃいますか?」

「勿論ですわ。インタグラムなんちゃらは3-xでしょう?」

「全然違いますし、この記号の読み方はインテグラルです。もう一度説明するのでよく聞いていてください」

隼人は苛々した時の癖で、ボールペンをカチカチと続けてノックしました。

私は所謂お嬢様で、隼人は使用人の息子。

小さい頃から虐げていたにも関わらず、どうしたわけか私の事が好きでたまらないようで、普段は全面的に私の言いなり―――なのですが…

「ねえ、ちょっと休憩しませんこと?」

「このページが終わるまで駄目です」

「………」

私のお母様からの言いつけ、しかも勉強の事となると話は別。

家に帰るとスイッチが切れるからと、学園の図書館を貸し切って軟禁され、放課後にもう2時間近く参考書を解かされているのでした。

(はぁ…どうにかして勉強を中断できないかしら…)

私はノートに目を落とす隼人の横顔を眺めました。

産まれた時から一緒に居て、すっかり見飽きてしまったくらいですが、改めて見ると綺麗な顔をしています。

成績もよく、人当たりも穏やか、バレンタインには抱えきれないほどのチョコレートを貰う人気者なのに、夜は…

「お嬢様。余所見をしていらしたでしょう」

「ごめんなさい、貴方のお顔に見惚れていたんですの」

「…そんなお世辞を仰っても、何も出ませんよ」

隼人は素っ気なく言いながら、糖分補給しましょうか、とチョコレートを1枚出してくれました。

「ふふっ、やっぱり私には優しいんですのね」

肩に寄りかかると、甘えてもダメです、と言いつつ、まんざらでもなさそうな顔。

…これだ。

私はシャーペンを手に取り、ここが分からないんですの、と適当なところを差して、左隣に座る隼人に椅子を近づけました。

「ああ、この問題は最初に…」

諦めてやる気を出したと思ったのか、にこやかに解説しだす隼人。

「こうして、これを…最後に二乗?」

「カッコの前にマイナスがあるので、それを掛けてください」

「…あっ、出来ましたわ!次は?」

「そうですね、じゃあもう一題似たようなものを、…」

身を乗り出すふりをしながら腕に胸を押し付けると、ぴく、と隼人が反応しました。

「問4?やってみますわ」

「え、ええ…頑張ってください」

計算もそこそこに、う~ん…、と悩みながら更に胸を押し付けてみます。

ちらりと顔を盗み見ると、隼人は何もない筆箱に目を落として、気まずそうな顔をしていました。

(…こんなことで照れるなんて、可愛いこと。もう少し意地悪してみようかしら…)

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