官能空想遊歩 (Page 5)

 先輩に手を引かれ、彼はオフィスビルの片隅へと連れていかれた。

 そこはビルとビルの隙間にある、誰も知らない空白地帯だった。空を四角く切り取り、高い塀のように周囲を取り囲むビル群は、その空間など無視するように窓のひとつもない。代わりにパイプなどが走り、まるで建物の内臓か欠陥でも覗き見ていいるような気分にさせれる。

 そんな空き地の片隅に彼を連れて行った先輩は不意に手を放した。

 彼がどぎまぎしていると、オフィスや取引先に向けるのとは種類の違う笑みを彼に向ける。

「ご褒美、欲しい?」

 小さく首を傾げ、上背のある彼を上目遣いに見た。その視線に理性が溶かされ、熱病に侵されて夢現の境目にいるような心地で、彼はこくんと頷く。

 先輩はするりと脛の半ばまであるマーメイドスカートをたくし上げる。

 ボートネックのトップスと合わせて肌の露出が少なく、落ち着いた雰囲気がある先輩がじりじりとスカートをたくし上げていくのは、奇妙な背徳感があった。ストッキング越しに白い足が白昼夢のように彼の目の前で露わになる。

 そして、黒いレースをあしらったショーツが目に焼き付く。特別に淫靡な意匠はない。それでも彼の目には強烈な淫らさを持って映る。

「はい、ご褒美」

 自らの出で立ちの淫猥さとは対照的な落ち着いた先輩の声音。

 ふらりと彼は踏み出した。

 先輩は動かない。オフィスにいる時と変わらない笑顔のままだ。

 彼は彼女の足元に跪き、剥き出しになったショーツへと顔を近づける。微かな汗の匂いと女性特有の香りがあった。

 手を使わず、彼は先輩の敏感な所へと舌を伸ばす。

「あぁ……」

 舌先が触れた時、先輩が微かな声を漏らす。

 拒絶されることなど、微塵も彼は考えなかった。犬のように舌だけを使い、女性の敏感な部分をなぞる。だが、舌先にあるのはストッキングの感触だけ。体温を感じることはできても、それ以上の交歓はない。

 興奮した獣の如き呼気のまま、彼はストッキングに歯を立てる。

「あっ」

 初めて先輩が狼狽したような声を出す。だが、彼はお構いなしにストッキングを食い破り、ショーツへと到達した。

 彼の唾液が染み込み、じっとりと湿ったショーツと肌の境目にじんわりと舌を這わせる。すると先輩の肩がぴくりと跳ねた。舌をショーツの中へ捻じ込むと、舌先に陰毛が触れる。

「犬みたい」

 微かな侮蔑な混ざった声が頭上に落ちてくる。

 彼は先輩の言葉通り獣性を剥き出しにし、彼女の太腿に歯を立てた。もちろん痛みを感じるほどではない。甘噛みだ。しかし、それでも口を話すと赤い跡がくっきりと残っていた。

 マーキングという言葉が脳裏をよぎる。

 自らのものだと主張する行為。

「ううっ」

 ズボンの中で勃起した男根が痛んだ。思わず犬のように唸ってしまう。

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