婚約者はひどい人 (Page 2)
周りには伏せていますが、私と鶴崎君は学生時代からの恋人。
鶴崎君は人当たりが良くて顔も良いから、他の女教師や女子生徒から言い寄られていることもしょっちゅう。
それに私が嫉妬して、職場でつい辛く当たってしまうと、家に帰ってから何倍もきついお仕置きが待っているのでした。
「あぁぁ…千切れちゃうっ…!お願い、許して、やめてぇえっ…!」
「うーん、千切れたら流石に引くわ」
「いやぁぁあ…!お、ねが…ああ、ああ゛っ…!」
「ほら、八つ当たりしてごめんなさいは?」
「…っ…、…や…八つ当たりして…すみませんでした…」
…私は悪くない。
そんな気持ちがあったせいで、一瞬謝罪が遅れてしまったのを、鶴崎君は見逃してはくれませんでした。
はぁ…とため息をついた彼は、側に置いてあったトレイの中から、白い物が入ったコップと小さな注射器を手に取ります。
「あ…いやっ…ごめんなさい、ごめんなさいっ…!」
「何回躾けても、お前は本当に物覚えが悪いな」
「やだ、それ、やぁっ、謝るから、ごめ…っ…!!!」
髪の毛を鷲掴みにし、私の鼻に注射器を捩じ込むと、彼は躊躇いなく注射器を押しました。
「げほっ!あ゛、げぶっ…!ごほっ…!」
冷たくて痛くて、猛烈に苦しくて。
勢いよく流れ込んできた牛乳で、私は激しく噎せこみました。
それでもなお、彼は左右交互に注射器を突っ込んで、鼻の穴から牛乳を注入します。
「う゛っ!…ぇぶぅ…っ…かは…あ、げほっ………うぶっ!えほっ、げぼっ…」
鼻から口から液体を垂れ流し、何とかこの苦痛から逃れようと、不自由な体を捩って悶絶。
…チュゥゥゥ…
「お゛え゛っ!ぶふっ…ぅう…っ…」
「反省した?」
「…ゲホゲホッ…!…ひゅ…はぁー…はー…っ…はん、せ…」
パンッ!
「ひぃっ!」
パンッ!パァン!
「あうっ…!あっ…反省…、してますっ…ごめんなさい…!ああ…!」
続けざまに飛んでくる容赦ないビンタ。
「…反省って、自分の行動や在り方を振り返って、それでいいのか考えることじゃない?10年以上経っても変わらないその可愛げもない性格をどうするの?そもそもそんなみっともない貧乳で良いと思ってる?」
「あっ…う…ぐすっ…すみませんでした…」
「いや、謝ったところで何にも解決してないからさ。何か一つでも今より良くしようと思わないと。ねえ、違う?」
「…あうぅ…」
矢継ぎ早に投げつけられる辛辣な言葉。
学校での人懐こい、穏やかな彼はどこにもいません。
「ひぐ、…っ…ぅえっ…ぁ…ひくっ…」
「…30過ぎて、メソメソ泣くんじゃねぇよババア」
「はい…ぅっ…ごめんなさい…おっぱい…無くてごめんなさいぃ…っ…」
泣いても泣かなくても、何を言っても怒られます。
私はどうすればいいか分からなくなって、鼻水をズビズビ啜りながらひたすら謝罪しました。
そんな私の顔を、至近距離でじっと見つめる鶴崎君。
付き合った頃からほとんど変わらない、整った顔。
それに比べて私は、年相応に老けてしまったし、鼻フックをはめて号泣している今は見られないくらいの顔になっていることでしょう。
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