セフレ以上恋人未満 (Page 9)

「み、ミナちゃん?」

「……ご、ごめんなさい。コウ君優しいから、調子に乗っちゃった。き、気にしないで」

 ベッドの上に座り込んだ彼女がシーツを身体に手繰り寄せながらモゴモゴと呟く。
 視線はあちこちに泳ぎ、どこか落ち着かない様子だ。

「でも、中に」

「だ、大丈夫! ほら、今はあとから飲むピルもあるし。……あー、すごいでしょ? 私の演技。興奮した? ははは。な、なんか今日はすごく気持ち良かったからサービ――」

 気が付いたら、俺は彼女を抱き寄せていた。
 汗と唾液と愛液と精液に塗れた彼女を抱き締め、赤茶色の髪にキスをする。

「……俺のようなおっさんの相手を嫌な顔ひとつせずしてくれる君は、本当のプロだって思ってた。だから、君が俺の気持ちを受け取ってくれるはずないって、思ってたんだ。俺からのプレゼントを身に付けてるのも、ただのサービスだってね」

「は、はは。そ、そうよ。どう? 気に入ってくれ――」

「そのネックレスは銀でできてる。だから、毎日着けてたら汗に反応して黒くくすんじゃう」

「え? あ、これ? そのっ、ああ……」

 俺がつまんだ彼女のネックレスは、所々が黒く硫化している。
 つまり彼女は、俺が送ったネックレスを本当に肌身離さず毎日身に付けてくれているのだ。

「ミナちゃん。俺は君に惚れてるんだ。本当に心から。だから、もうお金の関係はやめないか? ……俺の彼女になって欲しい」

 俺は彼女から身体を離し、真面目な顔でミナの目を見つめた。
 ここまで状況証拠を揃えないと告白できない俺は、本当に根性無しかもしれない。
 でも、ここまで状況証拠が揃っても告白できないなんて、もっと情けない。
 なにより、さっきのミナの台詞は心から湧き上がったものだ。
 彼女はそれを無理やり押し殺している。
 だから、それを引き出すのは俺の役目だ。
 ミナは何か言おうとして口を噤むということを何度か繰り返し、ついにはただ黙って俺の顔を見つめるだけになった。
 不意に彼女の瞳から涙が溢れる。

「……不倫して捨てられた女だよ?」

「もう、終わったことだよ」

「……お金で身体を売ってるのよ?」

「買ってるのは俺だからね」

「……私、ホントに汚れてるんだよ。そんな私で、いいの?」

「ミナちゃんが、いいんだ」

 ミナの瞳から溢れる涙が、顎を伝ってポタポタと太股を濡らす。

「……これもらってから、ずっと考えてた。コウ君が私にとってどんな存在か。でも、コウ君は私を買ってくれてる人だから、ずっと言えなかった! 私、私、あなたがホントに好きなの!」

 ミナはネックレスを握り締め、吐き出すように言った。
 俺は堪らず彼女を抱き締め、腕に力を込める。
 彼女の温かい涙が俺の胸を濡らし、心の中まで暖かくしてくれた。

(了)

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