オンナ絡みの揉め事、解決します。 (Page 4)
現場へ
刈谷には「事実関係を調べてみる」と言ったものの、俊一は夫妻の使った大手老舗系「出会い系」に弁護士を伴って情報開示を求めて…etc。などと、正規の手続きを踏む気はさらさらなかった。
入会の際に必要な身分証明書などはどうとでもなるし、そうなるとAの所在は闇の中である。
そこで俊一は、相手を直接見つけるよりも時短になる恭子の線から辿って、A、B、あわよくばA夫人から合わせてケジメを取る作戦に出る事にした。
あまり悠長に構えていると「探されている」と気づかれて、鳴りを潜めてしまう可能性もあるし、逆にこちら側が「その筋」と繋がっていると勘違いされても困るからである。
俊一は依頼を正式に受ける事にして、「では、これを奥さんのクルマの外側に貼り付けておいてください」といって、GPS発信機を渡した。
基本的には仮谷宅のマンションを張り込み→尾行という古典的な方法を取るつもりだった。その時に、この発信機が大いに役にたってくれるのだ。
そうしてマンション前や少し離れた地点を移動したり、公園でさぼる営業マンのふりをしながら車内で張り込みをして6日が過ぎた。
退屈なので、久しぶりにスマホでAM放送を聞きながら、時折、カーナビをチェックする日が続いた。
幸いだったのは、敵は“細く長く”恭子をいたぶるつもりらしく、夫の仮谷を警戒して呼び出すのは平日の昼間に限っていた事だ。
それでも一応は、土日もなく出動はして万が一に備えてはいたのだった。
そうして公園の“自由人”と目礼する間柄になった頃の午前9時、いつもより濃いめのメークに、タンクトップ・ワンピに身を包んだ恭子を乗せたホンダ・フィットの発信機が動き出したのである。
ニコンの双眼鏡で見たところ、明らかに買い物に行く雰囲気ではない。すかさずR34スカイラインのエンジンに火を入れた俊一は、エグゾーストで目(耳)立たないようにエンストぎりぎりのスピードで3速で追っていった。
そうしながら、今回の事案で助手に雇った里美に電話をして「発信機を同期させて、追ってこい!」と、いよいよ出番だという旨を伝えた。
里美は元AVの「企画もの女優」で、単体ではなく「ナンパ」「素人ハメ撮り」などの作品で便利使いされていた女優であった。
それが事務所のやり方に辟易してサッサと足を洗って、同じ時期に堅気になった俊一を頼って小さな探偵事務所に入ってきたという経歴を持っていた。
元はスポーツジムのインストラクターをやっていてスカウトされたくらいだから、スタイルは35歳の今でも良い。ただ、巨乳だったが筋肉が目立っていたのでなかなか売れなかったのである。
その里美も、めでたく結婚して現在は専業主婦をしているというのだから「オンナは分からない」と常々、俊一は思うのだった。
その里美を大宮駅(同)前で拾い、恭子の向かったらしい関越道・所沢インター(埼玉県)付近のラブホ街までの道を(法定速度内で)飛ばしてロスタイムを縮めたのだった。
そして、恭子と同じラブホの駐車場に乗り入れたのである。
俊一と里美は、すぐに恭子を追いかけて建物内でぶつかったフリをしてバッグに盗聴器を差し込んだのだった。
部屋番号にタッチするだけでいいはずが、恭子はフロントに立ち寄り「Aさんに507へ呼ばれてるんだけど」と言って、ルームキーはスルーしてそのままエレベーターに乗った。
どうやらラブホでは、デリヘル嬢と勘違いしているみたいだった。
その姿を見た2人は、ゆっくりと5階の部屋を選んでからフロントで支配人を呼んでもらい「これから507のAに話しがあるから、見ないふりをしておけよ。ケツモチの東雲会系とは全くの別件だから安心していいよ」と告げたのである。
そうしながら、数枚の諭吉サンを押し付けて渡して、「1時間後に出てくるから。そうしたら同じ額を置いてやるよ。東雲会に連絡しても、かえって暴対法でマズイからすぐには来ないだろうけどな」。
「分かりました。1時間ですね」。
東雲会というのは、東の勢力の下部団体のひとつだ。多分、その時分にはラブホの敷地外で俊一たちが出てくるのを待ち受けているかもしれない。
こうして防犯カメラ対策にキャップにスカーフを顔に巻いた里美と一緒に、507の前に2人は立った。そこで、里美がルームサービスになりすまして声掛けをした。阿吽の呼吸である。
「サービスのピザをお持ちしました」
「あ~、頼んでねぇよ」
下っ端のBがだるそうにバスタオルを腰に巻いただけの姿で顔をだすと、そのまま俊一が肩からドアに突っ込んで、つんのめりながら室内になだれ込んだのである。
少しのつもりがこんな時間
一気に読み終えた。
細かいとこまでマニアック。
面白い
うぞんけ さん 2020年11月29日