体験談 (Page 6)
「お、ぐっ、出る、出すぞ!」
宣言し、Aさんは女の中で射精する。マグマのように熱いものが睾丸からせり上がり、尿道を通って女の体へと吐き出された。勢いよく射精された精子が子宮口に当たる衝撃に女は、ぴくぴくと体を震わせ、喉の奥から引き絞るような掠れた声で啼く。
愛液に塗れた男根をゆっくりと引き抜く感触が、射精したばかりで敏感な先端から伝わり、Aさんはぶるっと体を震わせた。
途端に冷や水でも浴びせられたように目が覚めた感覚が意識を叩く。横面をいきなり張られたような感覚ですらあった。
Aさんはあまりに急な感覚の切り替わりに呆然としてしまう。
夢だったのか、とも思ったが、射精したはずの精子は床を汚していない。だが、一物は白濁した愛液に塗れている。
一体、自分の身に何が起こっているのか、理解できず性交を終えた気怠さだけがはっきりと体に残っていた。
Aさんの話では、その後も一人きりでいるとふとした拍子に、あの甘い乳の香りを嗅いだという。
そして、その度に交わったと。
人間の女を抱いても、あれほどの快感はない。だからか、生身の女では勃たなってしまったとAさんは笑う。ED治療も受けたそうだが、勃起するのは、あのいつの間にか現れ、そして消える女を思い浮かべた時なのだそうだ。
ただ、と。
Aさんは笑みを消して言った。
あれは、とAさんは女の話を続ける。
自分の妄想の産物ではなかった。仕事の都合で地方へと立ち寄った時に、本当に偶然立ち寄った場所で、あの女を確かに見たのだ。
必死に取り繕って知らんふりをした。あの女は自分の与り知らぬ所で、しっかりと生活していた。だから、それを壊してしまうようなことはできなかったのだと。
だから、女のことをすっぱりと忘れ、自分の気持ちを置いてくためにアパートを引っ越そうとしたAさんだったが、結局十年以上経っても同じアパートにいる。
幻の、空想の女を愛しているのなら良かったのに。
実在していると知りたくなかった。
未練なのだとAさんは、そう言って目を伏せた。
(了)
濡れました。
不思議だよみごたえもありましたが
同時に同じ立場の女性として共感もできるし
なによりリアルな性交のシーンが男性目線でしか画かれていないところもとても気に入りました。
なお さん 2023年6月26日