都合のいい僕たち

・作

高校の同窓会で再会した吉岡と姫野真紀。二人は普通なら縁のない普通の男とクラスのマドンナ的存在だったが、吉岡が姫野の言いなりになっていることで学生時代は関わりがあった。吉岡は特に用事はないと思っていると、なんと姫野から学生時代の礼がしたいと近づいてきて――……。

「マッキー久しぶり~!結婚したんだって?」

「お、姫野じゃん。お前相変わらず見た目変わんないな~」

 

現れてすぐに皆の視線を集め、口々にその名を紡がれるのはクラスのマドンナ的存在だった姫野真紀。

スクールカーストで最下層にいたような僕とは本来であれば、縁の遠い人物だ。

本来であればというのは、僕は不思議なことに姫野さんと近しいことが多かったからだ。

クラス委員が一緒だったり、バイト先が同じだったりということだけだったけど、少しばかり会話もしたことがある。

だからなんだ、と言われてしまえばそれまでだし、僕も大して姫野さんに興味があったわけではない。

姫野さんからしてみれば、僕はなんでも言うことを聞く従順な都合のいいクラスメイトの一人にすぎなかっただろう。

彼女がバイトの日を変わってほしいと言ってきたら僕は何も言わず変わっていたし、クラス委員の仕事も半分以上は僕が受け持っていた。

何故言いなりになっていたのかと問われれば、バイトは変われば僕が稼げる金額が増えるだけだし、クラス委員の活動も真面目な奴だと内申が上がる一方だったからだ。

僕が彼女に従うことに、何も損を感じなかったから言うことを聞いていただけ。

そんな在りし日もあったな、などと姫野さんの姿をちらっと見て思い出し、僕は数少ない旧友と再びジョッキを酌み交わす。

 

「吉岡、姫野さんと喋らなくていいのか?」

 

旧友がジョッキで姫野さんの後ろ姿を差し、バカなことを言う。

僕が彼女に用事が無いように、彼女だって僕に用事は無いはずだ。

高校の同窓会とはいえ、クラスメイト全員と話す理由はない。と思っていたのだが、姫野さんは旧友と僕の間に入るようにやってきた。

 

「こんばんは、お久しぶり」

 

旧友の方は一切見ず、僕だけを見ている。

 

「……どうも」

 

社会人になったのだから挨拶くらいはしないと。そう思い、簡単な返事だけをする。

元々僕は人と大して喋らない。その挨拶だけで去るかと思っていたが、姫野さんは立ち去らなかった。

旧友は姫野さんに見向きもされないことと、僕と姫野さんの間を邪魔しないようにと静かに別の友人の元へと行ってしまった。

 

「どうしたの。僕なんかより話せる人、たくさんいるでしょ」

「吉岡君と話したくてこっちに来たの。まさか来てるなんて思ってなくて」

 

ふんわりと柔らかい香水のいい匂いが漂ってきた。

姫野さんは学生の頃からとても綺麗だったけど、こうして成人した後も綺麗だ。

まっすぐに肩甲骨あたりまで伸ばされた艶のある黒髪が、彼女の学生時代を彷彿をさせる。

 

「ね、学生時代に吉岡君にはたくさんお世話になったでしょ?そのお礼がしたくてさ。この後、ちょっと抜け出さない?」

 

僕の右腕に細くて白い腕を絡ませる。その時、姫野さんの左手の指輪が照明に当たってキラリと輝いた。

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