ウィザードレディー
この世界は、目に見えるものだけが全てではない。目に見えない世界も存在する。魔術と呼ばれるものが存在する。魔術を行使する、魔術師と呼ばれる者も確かに存在する。人々はそれを知らないだけである。人々が知らないだけで、目に見えない世界が絡んでいる事件が起きている。それを解決する者がいた。魔術師・神楽……彼女は目に見えない世界の事件を解決する者であった。
夜、街の外れにある森。そこには廃墟と化した建物があった。
廃墟になって、どれだけの年月が経過したのか分からない建物。
人が住めるような建物ではないが、今その建物からは複数の人の気配が漂っていた。
ガラスがすべて割れた窓からは、ユラユラと揺れている光が覗いている。
そして建物の中からは、不気味さを感じさせる呪文が響いてきていた。
廃墟と化している建物の中には複数の男がいる。不気味な呪文を唱えているのは、その男たちだ。
皆、灰色のローブをまとい、フードを目深にかぶっているので顔がよく見えない。
ユラユラと揺れる光は、何本ものロウソクに灯された火の光。
灰色のローブの男たちは、手に刀身がのたくった蛇のような形状の長剣を持っていた。
戦いのための剣ではない。儀式用の剣だ。
床には灰色の塗料で魔方陣が描かれており、儀式用の剣を持った灰色のローブの男たちはその魔方陣を囲むように立っている。
魔方陣の中心には、全裸の女性がいた。見るからに頑丈そうな鎖で拘束されており、口には猿ぐつわを噛まされていた。
ローブの男たちに剣の切っ先を向けられ、身動きがとれない女性は顔に恐怖の表情を浮かべる。
「偉大なるものよ、いま生け贄を捧げます」
男の1人が静かな口調で言う。
その男は全裸の女性……悪魔に捧げる生け贄である女性に歩み寄り、逆手に握った蛇がのたくったような形状の剣を振り上げた。
剣を振り下ろし、女性の胸を刺し貫こうとしたときだった。
ガラスが割れた窓から光り輝く何かが飛翔してきて、今まさに女性の胸を貫こうとしていた剣を砕いた。
剣を砕いたものは、光の槍とでも呼ぶべきものだった。光の槍は剣を砕いたのと同時にフッと消える。
「何者だ!?」
女性を剣で貫こうとしていた男は、光の槍が飛んできた方に顔を向けた。
他の男たちも、そちらに顔を向ける。
「光よ、撃ち抜け!」
男たちの問いかけに答えるかのように、若い女の声が建物の外……剣を砕いた光の槍が飛んできた窓から聞こえてきた。
再び光の槍が飛んでくる。ローブの男たちは、慌てて光の槍を避けた。
光の槍は壁を砕く。もし当たっていたら、男たちはただではすまなかったことだろう。
壁を砕いた光の槍が飛んできたガラスのない窓から、1つの人影が建物の中に飛び込んできた。
それは160センチほどの身長の、癖のない黒髪をセミショートにしている20歳くらいの女性であった。
窓から飛び込み、床に着地した拍子に、ブラウスの胸の部分を押し上げている膨らみ……軽く見積もってもFカップはあるであろう乳房がユサッと大きく揺れる。
「私のことを、何者だって聞いたわね」
Fカップの乳房の彼女の顔は整っていた。美女と呼んで過言ではない。
そんな彼女は灰色のローブの男たちを鋭く睨む。
「あんたたちみたいに魔術を悪用する者の敵よ」
そして、そう言い放った。
豊満な胸の美女……工藤神楽(くどう・かぐら)のその言葉が切っ掛けだったかのように、灰色のローブの男の1人が右手を彼女に向かって突き出す。
「光よ、撃ち抜け!」
力が込められた言葉を口にする男。
すると、男の右の手のひらから光の槍が飛んだ。それは神楽に向かって、まっすぐ飛ぶ。
光の槍を放った男は、それが神楽の体を貫くと思った。だが、それは間違いであった。
神楽は素早く、力が込められた言葉を口にする。
「光よ、楯となれ!」
その言葉に応えるように、神楽を守る光の楯が出現した。
灰色のローブの男が放った光の槍は、神楽が作った光の楯によって阻まれる。
光の粒子となって消滅する光の槍。光の槍が神楽を傷つけることはなかった。
神楽は光の槍を飛ばした男に右の手のひらを向ける。
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