ウィザードレディー (Page 4)
「心臓がない?」
 書類には、そう書かれていた。
 すべての死体から、心臓だけが失われていると。
 犯人は被害者の胸を裂いた後、心臓をえぐり取ったらしい。
「これは俺の刑事としてのカンなんだが……」
木原はカップをソーサーに置いて、神楽に告げる。
「この事件、俺たち警察の領分ではない。キミの……魔術師の領分の事件だ」
 神楽は死体……心臓がえぐり取られているという死体が写っている写真をジッと見つめた。
 写真から何かを感じ取ろうとしているかのようだ。
「確かに、これは木原さんたち警察の領分じゃないわね。私の……魔術師の領分の事件だわ」
「やはりそうか。なら、この事件の調査と解決をキミに依頼したい」
木原に言われ、神楽は小さく頷(うなず)く。
「前金は、ここの払いで」
コーヒーを飲み干した神楽は、席から立ち上がる。
「安い前金で助かるよ」
「リーズナブルなのが、私の売りですから」
神楽は笑みを残し、喫茶店を後にした。
 警察の手に負えない事件、木原はそれの解決を神楽に依頼することがある。
 彼はこの世に普通の人間ではどうにもできない事柄があること知っている人間の1人であった。
◇◇◇
 夜が訪れる。
 夜は闇を生む。
 ソレは夜が闇の中に潜んでいた。
 闇と同化し、獲物が来るのを待っている。
 足音が聞こえてきた。ソレは足音が聞こえる方に顔を向けた。
 1人の女性がソレが潜んでいる場所に向かって歩いてくるのが見える。
 スーツ姿の女性だ。その女性が何者なのか、ソレには関係ない。
 今夜の獲物の1人……それだけのことだ。
 ソレは潜んでいる闇から飛び出た。
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