夜のレッツ・マッスル! (Page 3)
「やっぱり運動ができる人には、できない人の気持ちは分からないのかしらね……」
そんな風に拗ねる楠末部長を見ながら、それは部長があまりにあまりだからですと言えないオレがいた。
しかし、その時悪い考えがオレの頭の中をよぎった。
表情を変えないようにじっくりとそれを吟味してから、オレは勝負に出る。
「そうですね、部長がそうおっしゃるなら、ちょっと考えます」
「あら、でも良いの? 運動する気だったんでしょ」
「はい。ですからもし部長が良かったら、一緒にトレーニングしませんか?」
オレの言葉に一瞬呆気にとられたような顔をする部長。
「何を言っているの? 私はあのていたらくよ、普通にやったら藤沢君お邪魔になるだけよ」
「いえ、一人で運動するよりは、二人でやった方が効率が良いですし、自分のトレーニング方法だったら部長もきっと満足するはずです」
オレの言葉に半信半疑な部長。
それはそうだろう。
中肉中背で、ちょっとお腹が出始めている部下の言葉を
「そ、そう? じゃあ、まずは何をやれば良いのかしら?」
「そうですね、まず部長は体力がありませんよね。だから、まずは基礎体力をつけましょう」
いけしゃあしゃあというオレに、部長はちょっと怒ったように反駁した。
「でもどうやって? 藤沢君が見ていた通り、走ろうとしてもそれが続かないのよ。ウォーキングでつく体力と言ってもたかがしれているでしょう?」
「そうですね。ですが自分がおすすめする運動は室内でもできますよ」
「そうなの? ここでもできる?」
思った以上に簡単に食いついてきた。
「いえ、流石に会社ではちょっと。でも、家でもできますから、……良かったら部長の家でお教えしましょうか?」
「……そうね……うーん、……背に腹は代えられないわね。わかりました。明日は休みだから、ちょうど良いでしょう」
部長は暫く逡巡したものの、オレの申し出にあっさり乗ってきた。
チョロい、チョロすぎると思ったが、辛うじて顔には出さずに済んだ。
まずは無事に部長の家に入ることができそうだ。
後は入ってから上手くやれるかが、もう一つの勝負だとオレは心の中で呟いていた。
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