愛液はオシッコにまみれて -Born to be Wild!- (Page 3)

その日の順平は、都下から更に山近くに入って多摩川の源流を外れたあたりで本を読んでいた。50mくらい下っていた辺りでこじんまりとしたグループがBBQをしていたので、気になってはいたのだが、ひとりで河原で焚火をして本を読んでいるだけの変人には近づいてこなかったのが幸いだった。

「それにしても…」と順平は思う。どこぞの誰かが“通”ぶってブログに場所を書いてしまったおかげで、このザマだ。きっと、この上下をポイントにしている釣り人も迷惑しているだろう。なんせ、場が荒らされるのだから。

その下流にいるのは男女2人ずつの4人組で、どうやらダブルデートと洒落込んでいるらしい。多分、「流行っているから」と日帰りキャンプの真似事をして、同行している女性の気を引こうとでもしているのだろう。

乗ってきているのは、ロングのワゴン車で荷はたくさん積めるのだが、こうした場所に入り込んでくるには大きすぎるサイズである。ブームが去ったので、四駆ではないはずだ。
山道から河原に降りてくる道には、ガードレールなぞはあるわけもなく、ドライバーが冷汗をかきながらハンドルを操っていたのは想像に難くない。

それでも「水道ないの?」とか「トイレは?」とかいう声が順平のいる場所まで聞こえてくる。そもそもキャンプ場でもないので、そんなモノがあるわけはない。
そうした事実をはじめて知ったオンナ2人のテンションがグダさがりになった模様だ。

リーダー格のオトコも、「ブログには『水道がない』なんて、書いてなかったし」と、困り果てている。挙句の果てには、怒り狂うオンナに「サイテーね!」となじられて、半泣き状態になっていたようだった。

「おやおや、ご愁傷様な事で」

順平は、大量に買い付けた“地元の水”で淹れた熱いコーヒーの香りを楽しみつつ、水面と初心者キャンパーたちのやり取りを見るともなく眺めていた。
すると、そこへ、

「すいません~ん」

と、申し訳なさそうにグループの中の女性が駆け寄ってきた。
そのオンナ(あとで分かったのだが)・長野頼子は、

「お水が余分にあったら分けてほしいんですけど…」

どうやら水がないので、癇癪をおこしている方のオンナが得意のシチューを作れずにいて、余計に荒れているらしい。

「大変だねぇ、使えない男を彼氏に持つと。いいよ、アナタは好みのタイプだから5Lくらいあげるよ。男に取りに越させなよ」

「ありがとうございます」

彼女はペコリと頭を下げて、自分たちのところへ走って帰っていった。普段は履かないらしく、ジーンズが似合っていない。そんな事を頼子の駈け去るヒップをガン見しながら考えていると、振り返って、

「それとぉー、別にあそこにいる男性は恋人でもなんでもないですから!ほかの2人のデートにつきあって来てるだけですから!!」。

とゴツゴツした石につまづきそうになって離れていった。

アウトドアが似合うわけではないのだが、不思議と天真爛漫さが身についてい。中肉中背でやや痩せ型、順平の好みのタイプではあった。

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