ダブル不倫はスポーツの後で (Page 2)

運動をしていると、頭がからっぽになって心地よい疲労がある。そして無心で走ると、沙耶香は仕事中は当たり前にしている本音を隠したコミュニケーションが上手くできなくなってしまった。
夫の不倫をあっさり打ち明けたのは、慎司の引き出す力があまりに自然だったからという理由もあったかもしれない。
愚痴をこぼしながら走る沙耶香を面白そうに見ながら、ずっと早いペースで慎司は走っていた。

「っはぁ…だから、ちょっと…ストレス解消とダイエットを兼ねてですね…」

ランニングマシーンを降りて、息を荒げながら沙耶香が言うと、少しも息が上がった様子のない慎司が目を大きく開けて言った。

「えっ、ダイエットとか要らないでしょ阿部さんは」

「…は?」

沙耶香は、どちらかと言えば肉感的な身体をしている。バストもヒップもかなり大きな方だと自分ではコンプレックスに感じていた。
余計なことを言ってしまったと思ったが、慎司は既に沙耶香の身体を上から下まで舐めるように見ている。

「正直、俺阿部さんの身体めちゃくちゃタイプですよ?うちの妻はかなり華奢なんですけど」

「ちょっと!や、やめてください…」

身体にぴったりフィットして、なおかつ露出の多いスポーツウェア姿であることが今更恥ずかしくなって、首にかけていたタオルで沙耶香は顔の下半分を覆って顔を逸らした。

「あ、失礼でしたね、ごめんなさい」

「はぁ」

気のないような返事をしたが、沙耶香は男から性的な目線を送られるのは久しぶりのことだったため、もぞもぞと性感がのぼってくるような気持ちよさがあったし、それによって興奮させられてしまっていた。

そして、沙耶香が慎司からの視線に困惑しつつも興奮していることに慎司は気づいていた。
なにせ慎司は女遊びの経験値が並の男とは桁違いに多いのだ。自分と喋っている女が自分と寝ても良いと思っているかどうかは、見ればすぐにわかる。

「ね、もし良かったらこれから飯でもどうです?」

更衣室に向かう途中でそう言った慎司を、さっきのお返しとばかりに舐め回すように全身見ると、大げさでない程度の筋肉がしっかり付いたその大きな身体は沙耶香が身近で見たことのない種類のもので、妙に心臓が高鳴った。

「素の阿部さんと話すのすげー楽しかったんで、もうちょっと話したいなーと」

そそられる誘いだが、過ちを犯すことを沙耶香はまだ心配はしていた。どう見てもモテるであろう慎司が自分を相手にするかどうかはわからないが、それでも夫への裏切りになるかもしれないと思うと考え込まざるを得なかった。
しかしそんな沙耶香の心を動かしたのは、慎司が左手の拳を軽く突き出して結婚指輪を見せてきたからだ。

「安心でしょ、俺と阿部さんなら」

「まぁ…そうですね、じゃぁ」

「良かった!じゃぁエントランスでまた」

沙耶香が誘いを受けた瞬間にぱっと開くように笑顔を見せてきた慎司の顔の造作は、決してハンサムというのではない。
ハンサムとかイケメンとかいうのではないが、人の懐にするする入ってしまう不思議な魅力のある顔立ちだと、沙耶香は思った。

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