迷子の夜に (Page 4)

「大丈夫?」
「はい……気持ち、いいです……」
 トロンとした表情で答える。
 少しずつ動きが速く激しくなってきて、ちひろは男の首に手を回した。胸に顔を埋めたまま、男が抱き締めてくる。
「あんっああっひああっ」
「一緒に気持ち良くなろう、ちひろちゃん」
「はっ……」
 返事の代わりに、中がキュウッと男を締めつける。

「ちひろちゃんっ……!」
「あーっああっ……!」
 同時に痙攣し、絶頂を迎える。
「ふあっ? まだイッ……」
 すぐに硬くなったペニスでこすられる。イッたばかりで敏感な体は簡単に高みに登っていく。

「あんっやああっイッて……」
「いいよ、何度でもイッて」
「あうっああんっ」
 奥を突かれるたびに頭の中がふわっとする。
(お兄さんのでいっぱい……何だか、おかしくなる……っ)
「はううっああ……」
 コンドーム越しに熱い液体を感じ、ちひろは絶頂に身をゆだねた。
 

*****

「旅館かホテルか知らないけど、近くまで送っていくから帰った方がいいよ」
 広いお風呂に一緒に浸かりながら男が言った。
「でも……」
「学校なんか後1年かそこらで卒業するんだし、そうしたら新しい場所で新しい友達ができるよ」
「はい……」
「これからは簡単に体を許さないようにしなよ。って、俺が言うのも何だけど」
「はい……」
「大丈夫?」
「はい……」

 あまり大丈夫ではなかった。
 帰らなければならないのは分かる。だけど騒ぎになっていても気づかれていなくても帰りたくない思いが強い。
 男が後ろから肌を撫でてきた。心地良くて体を預ける。

「ちひろちゃん」
 男が耳元でささやく。
「忘れないで。俺が君の幸せを願っているから。くじけそうになったら、思い出して」
 胸の奥が熱くなって、涙がお湯に落ちた。
「……はい」

*****

 翌朝、司は約束通り旅館の近くまでちひろを送った。
「じゃあ……元気でね」
 髪をおろしているちひろは出会った時より大人っぽく見えた。

「私、卒業したら上京しようかと思って……そうしたら、会ってくれますか?」
「あー……うん、偶然会えたらね」
 ちひろが残念そうに頷いた。

「あの……お兄さんの名前、教えてもらっていいですか」
「え……と……」
「私の幸せを願ってくれる人の名前を知りたいんです」
「……大城司」
「大城司さん……」
 ちひろが噛み締めるように繰り返す。

 もう二度と会わない方がいいと偽名を使うつもりだった。だが、口からするりと出たのは本名だった。
「あの……」
「ん?」
 聞くために顔を近づける。スッとちひろが顔を上げて、唇が触れた。

 びっくりして固まると、ちひろが照れて頬を染めた。
「わ、私のファーストキスです」
 ちひろが笑顔になって手を振った。そして、旅館に向かって駆けていった。

「う~……」
 本気になるなと両手で頬を叩く。
「……就職活動、頑張るか」
 のびをして、司は歩き出した。

(了)

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