モノクロに色付く世界 (Page 2)

 丹念に手入れをしていると、呼び鈴が鳴った。
 カメラをケースに入れ、佑司は玄関まで向かう。ガタつく古い引き戸を開けると、そこには成実が立っていた。学校と同じようなパンツスーツで、硬い表情をしている。
 
「どうぞ、上がってください」
「失礼します」
 成実は緊張した面持ちでパンプスを脱ぎ、室内へ上がった。
 
 佑司の自宅は全体的にがらんとした印象だ。あまり物がなく、整理整頓が行き届いているため、生活感が薄い。埃の代わりに年経た家屋の寂れた雰囲気がそこかしこに堆積している。
 それは頽廃の香りでもあった。
 
 廃墟じみた頽廃が、そこかしこから匂い立つ。
 佑司の後ろを歩きながら成実は、知らず知らずの内に肺の奥深くまでその香りを取り込んでいた。
 そうして彼女が通されたのは、座卓と座布団があるだけの質素な応接間である。
 
「お茶をお持ちします。少しお待ちください」
 そのように言い置いて、佑司は応接間を出ていく。
 
 成実は耳を澄まして、彼の足音が遠ざかっていくのをじっと待つ。そして、彼女は廊下と応接間を隔てる襖を静かに開けた。顔だけ出して廊下の様子を窺うと、離れた場所から微かに食器の触れ合う音が聞こえてくる。
 
 応接間を出て、足音を忍ばせて成実は記憶を頼りに佑司の書斎を目指した。
 写真を探すのだ。そして自身の過去に関係あるものを全て回収し、処分してしまえば怯える必要はない。
 さして大きくもない家だ。成実は労せずして書斎を探し出した。
 
 室内には教育関係の書籍が収められた書棚があり、小さな机が据えられている。その机にはブックエンドで何冊かのアルバムが立てられていた。
 
 成実はすぐに座卓に近寄り、アルバムの中を検める。
 一冊目はどこともしれない風景が収められていた。
 二冊目は制服を着た学生が男女を問わず写された写真が収められていた。ただ、撮影された学生達は誰もが笑顔である。
 
 三冊目のアルバムを開いた時、成実は硬直する。
 彼女が手にしているアルバムには、緊縛された女性のポートレートが収められていたのだ。どの女性も笑顔ではない。中には苦悶の表情を浮かべている者もいる。
 
 だが、撮影された全ての女性は嫌悪していない。
 むしろ恍惚としてさえいた。
 

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