おとなしいと思っていた会社の後輩は好きな人の前では豹変しちゃう (Page 2)

「あっ、時間……」

 そろそろバスの時間が近づいてきていた。
 私は先輩を起こそうと手を伸ばしかけて、ふと気づいてしまった。

『このまま先輩が起きなければ、そうすれば……』

 私は伸ばし掛けた手を先輩のスマホに向けた。
 先輩を起こさないように気をつけながら指を当ててロックをとく。

「やっぱり、アラームを掛けてましたね……」

 私はアラームをとくと、再びスマホを元の位置に戻す。
 そして、バスが通り過ぎるのを確認してから、寝たふりを始めた。
 予想通り、暫くして先輩が焦ったように私を起こしてきた。

「ふぁあ、先輩、すみ、ません、また寝てしまって」
「いや、それはいいんだ。……でも平野さん、バスが出ちまった」
「えっ! それは大変じゃないですか」

 我ながらわざとらしい受け答えだ。
 しかし、焦っている先輩は私の稚拙な演技に気づくはずがなかった。
 先輩は困り果てた様子だったが、それでも気を取り直したのだろう、関係各所に電話連絡をし始めた。

「とりあえず、会社には報告したら、宿泊費用は出してくれるらしい」
「本当ですか? それはちょっとラッキーですね」
「まあ、そうだな。確かにちょっとした旅行みたいなもんだからな」

 苦笑をする岸田先輩は、どことなく困ったような表情だった。

「あ、奥様から何か言われたんですか?」
「ん? いや、そういう訳ではないけど、やっぱりなあ……。というか、そもそも泊まるところあったのか、あの町?」

 それ以上、岸田先輩は何も言わなかったが、明らかに私と泊まることに遠慮があるのは明らかだった。
 そのことに気づかないふりをして、私は先輩の手を握って引っ張った。

「じゃあ、先輩、確か今日説明をした民宿だったら泊まれるんじゃないですか?」
「ああ、そうだったな。ただ、日は週末だから、部屋があれば良いんだけど」

 町の民宿に行くと、幸運にも一部屋だけ空いていた。
 先輩は最後までもう一部屋ないか粘っていたが、週末は釣り客が多いらしく、用意できなかったらしい。
 
「うーん、流石に平野さんと同じ部屋っていうのは」
「もう、先輩、今日はしょうがないじゃないですか。しかも無理を言って離れを開けてもらったんですから」
「確かにそれはそうなんだけど、うーん……」

 相変わらずぐずぐず言っている先輩を引っ張るように私は部屋まで連れて行った。
 民宿の離れは普段使っていないせいか少しかび臭かったが、しっかりとした造りで、ちょっとした料亭のような雰囲気があった。

「これはなかなか良い部屋だな……」
「そうですね、こんな部屋に泊まれるのはちょっとラッキーじゃないですか?」
「うーん、まあ、そうかもしれないな」
「あっ、夕飯は食堂みたいですから、先輩行きましょうよ」
「はいはい、分かった分かった」

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