夜のレッツ・マッスル!
オレの職場に現れた新部長、楠末文乃(くずえふみの)。新部長は仕事ができる強気なクールビューティーかと思いきや、運動が駄目なポンコツかわいい人だった。それを知ったオレは一計を案じ、体力作りという名の夜のトレーニング、つまりセックスへと持ち込むのだった。ほぼ初めての激しい肉と肉のぶつかり合いに戸惑う文乃をオレは、次々に開発していくのだった。
オレの職場に新しい上司が現れた。
楠末文乃。
まだ三十手前のはずだが、うちの会社でもやり手で評判の女性だった。
やや目つきが鋭いことを除けば美人の部類に入るだろう。
雑に頭の後でくくられている長い黒髪も、クールな雰囲気に似つかわしい。
評判通り、前の部長よりも遙かに仕事ができ、部署の営業成績はうなぎ登りに上がっていった。
しかし、たった一つ不満があった。
それは管理が行き過ぎていることだ。
とにかく、部下の行動をコントロールしたがる。
確かに指示は的確で、言われたとおりにしているだけで上手くいくのだが、あまりに言われるがままなので、まるでロボットになったような気分だった。
当然、時間外労働は許されない。
必要があって申請したとしても、その申請が通ったことは一度もなかった。
もちろん、残業が悪なのは言うまでもないが、ただ、仕事をやっていて調子がよく、続けたいなあと思っている時に止められるのは、ちょっと苦痛だった。
それでも、以前と違って人間らしい生活を行えるようになったことは感謝している。
「せっかく時間ができたから、ジムにでも通うかなあ」
三十を目前にして、徐々に増量してきたお腹を眺めながら、ついついぼやきが出てしまう。
「そういえば、駅の側にジムできたんだっけか……」
最寄り駅の側にちょうど新しいスポーツジムができたのを思いだしたオレは様子を見て帰ることにした。
*****
「えっ、なんでここに?」
帰宅途中にジムの前を通りかかると、楠末部長がトレーニングをしていた。
仕事もできて、美人で、しかも健康意識まで高いなんて、どれだけ完璧超人かよ。
そんな気持ちで眺めていたら、どうやら様子がおかしい。
「いやいや、それはないっしょ……」
まずダンベルが持ち上がらない。
ロードランナーで走っていても、徐々に歩き出してしまう。
勿論、降りたあとには生まれたての子鹿のような足取りになっていた。
どういうことだろう。困惑して眺めていたら、目が合ってしまった。
息を切らしていたはずなのに、一気に能面のように顔が硬直する。
それから、ギンっと効果音が聞こえてきそうな勢いでオレを睨み付けてきた。
「あっ、やばっ……」
拙いなと思ったオレが取った行動は、その場から一目散に逃げ出すことだった。
しかし、考えてみればそんなことをしても何の意味もない。
だって、日が変わって翌日になれば、会社で顔を合わせることになるのだから。
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