放課後特別授業 (Page 3)

「—先生。松田先生!」

「あっごめんごめん。どうしたんだい?」

顔を上げると今朝のぼくの失態を発見した生徒がいた。

「どうしたって。遅刻してるから迎えに来てあげたんじゃん。」

慌てて時計を見ると15分は過ぎている。

「ええ!あ、ほんとだ。」

職員室に残る授業のない先生たちから白い目を向けられる。

「先生って変態なだけじゃなくドジだね。」

そんなこと言われなくてもぼくが1番わかっている。

「この子はドンくさいねえ。」「何回も説明したでしょ!」「どうしてこんな簡単なことができないの。」小さい頃からずっと言われてきた。

廊下を一緒に歩きながら訊かれる。

「ねえ、あたしの名前覚えてる?」

「たしか委員長の…園田さん?」

「人の名前間違えるとか失礼過ぎ。は・ね・だ。」

「ごめん。」

「まあドジで童貞なのに変態な先生には期待してないから。」

やっぱり童貞の噂もまわっているのか。

階段を上りながら羽田の短いスカートがヒラヒラ揺れもう少しでパンツが見えそうになる。

ガラガラ。

「みんなお待たせー。授業を忘れるマヌケな先生探してきたよ。」

「遅―い。」

「どこにいたんだよ。」

「女子更衣室で制服の匂い嗅いでた。」

ドッと爆笑が起きて恥ずかしさに足が震える。

これからもこんな風にずっとバカにされるんだろうか。

新学期ははじまったばっかりだ。

今のうちに何とかしなくては…。

 

ドサッ。職員室の椅子に座りこむ。

ようやく長かった1日が終わった。

ぼくはどこのクラスでもバカにされた。

2年生だけではなく1年生の授業でも笑われたし、授業のない3年生からも廊下で「童貞せんせーい」と遠くから叫ばれた。

だけど休憩はできない。

明日の授業の準備がまだ残っている。

けれど、今日の失態とどうすれば挽回できるのか。

そればかり考えてしまう。

「松田先生。7時になったら職員室以外は校舎の施錠をしてください。」

「は、はい。わかりました。」

少しだけ課題を作成して戸締りに向かう。

まだ残っている生徒を帰らせようとしてもなかなか上手くいかない。

なにしろぼくは変態・童貞教師だから。

「まだいいじゃん。童貞のくせにうるさいなー。」

「変態教師に指図されたくないんですけど。」

完全に舐められている。

最後に2年1組の教室に行くとまだ明かりが付いている。

羽田さやかが一人で勉強している。

たしか1年の成績は学年トップだった。

「熱心だね。でももう遅いから帰ろうか。」

「まだいいじゃん。」

「危ないよ。この前も変質者が出たって言うし。」

「ふーん。ここにもいるけどね。」

拳を握りしめる。

「それは先生に対して言っていいことじゃないよね。」

「はあ?気づいてないなら教えてあげる。誰もあんたのこと先生だなんて思ってないから。」

帰る準備をしている羽田を見ながらその言葉が頭の中で繰り返された。

ぼくは教師と思われていなかった。

だからあんなにばかにされたのか。

それなら…。

何かがぼくの中で爆破した。

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