枯れ専美女は上司を襲いたい (Page 3)
「あ、その角を右に曲がったところで」
「はい」
彩の自宅マンションの前で、車が停まった。
周囲は住宅街で、しんと静かだ。
「では、今日はお疲れさまでした」
正雄がそう言ったところで、彩は思い切って彼に向き直った。
「課長」
「はい」
「よろしければ、上がって行かれませんか?」
「はい?」
「送ってくださったお礼に、お茶くらいはお出しできます」
声は緊張でやや掠れ気味だったが、彩ははっきりと正雄を自宅に誘った。
枯れた男性には直球勝負しかないと彩は経験で知っていた。駆け引きめいた態度で欲望をのぞかせるような男を相手にしないのだから当然のことだ。
正雄は、メガネの下の瞳をきょとんと見開いた。
「お気遣いありがたいですが、その必要はありません」
「…是非課長に召し上がっていただきたいお茶があるんです」
そんな訳がないことを言い出すのは少しおかしいと正雄は訝しんでいたが、いずれにしても若い異性の部下の自宅に上がり込むなどあってはならないことだ。
彩の表情を伺うように、正雄は眉根を寄せた。
「樋口さん、あなたのような若い女性がそう無防備に男を家に誘うべきではありません」
「…」
「勘違いした相手に嫌な目に遭わされるのはあなたの方です」
「勘違いではありません…課長だからお誘いしているんです」
「え…」
想定外だったのか正雄は言葉に詰まった。
或いは意味が理解できていないのかも知れなかった。
「私の部屋で、一晩一緒に過ごして欲しいんです…そういう意味でお誘いしてます」
彩はダメ押しとして一言足し、右手を運転席の正雄の太ももに置いた。
異性として見ているというはっきりとした意思表示だ。
「…そうでしたか」
「どうしても課長がお嫌でしたら構いません。でももし部下としてでも私のことを好もしく思われる気持ちが少しでもおありなら、一晩だけ私のお願いを聞いてもらえませんか?」
「…私は、おそらく樋口さんの期待に沿うことができません」
正雄は難しい顔をしたまま、俯いて言った。
「あなたのような若い女性を、その…」
「構いません」
正雄が少し恥ずかしそうにしている様子を見て、彼が心底嫌がってはいないのだとわかった彩はきっぱりと言った。
「課長は何もなさらなくてもいいんです。本当に、横にいてくださればそれで」
「…では…お茶だけ…」
その瞬間、彩はぱっと花が開くように笑った。
「ありがとうございます」
車をマンション近接のコインパーキングに駐車して、2人は彩の部屋へ向かった。
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