聖剣の剣士 (Page 3)

　とある学園の教室の1つ。
　そこにはユリの姿があった。
　ユリはクラスメイトと楽しそうに話をしている。
　魔剣と戦う聖剣の剣士としてのユリはそこにはいない。
　そこにいるユリは、どこにでもいる1人の学生であった。
　まさか彼女が人を襲う魔剣と戦う者などとは、クラスメイトは少しも考えないことであろう。

　長剣を右手に持つ黒衣の男の前には、1人の女性が立っていた。
　その女性は胸を、男が持つ長剣で貫かれている。
　長剣で貫かれているというのに、女性の胸からは血が一滴も流れていない。
　まるで、長剣が女性の血を吸っているかのようだ。
　まるで、ではなく、実際に黒衣の男の長剣は女性の血を吸っていた。
　長剣が血を吸っているから、女性の胸からは血が流れることはなかった。
　顔に恐怖の表情を浮かべている女性の肌から、どんどん血の気が失せていく。
　黒衣の男は女性の胸から長剣を抜く。
　女性は倒れ、ピクリとも動かない。
　黒衣の男が持つ長剣……魔剣には、赤い血管のような模様が浮かんでいる。
　女性の血を吸った証し。
　黒衣の男が軽く右手を振ると、まるでマジックのように魔剣が男の手から消えた。
　全身の血を吸われて絶命した女性に背を向け、黒衣の男はその場から歩み去っていった。

　奇妙な殺人現場と言えた。
　体に血液がない女性の死体が発見された。
　胸に大型の刃物で刺された傷があるというのに、現場には少しの血痕もない。
　どこか別の場所で殺され、発見された現場に運ばれた……警察はそう考えた。
　だが、死体がどこからか運ばれた形跡はない。
　女性は現場で殺されたのだ。
　どういうことなのかと、警察は首をひねるばかりだ。
　異様な殺人事件……犯人の見当もつかない。
　だが、この事件を異様と思わない刑事がいた。
　その刑事の名は田中。
　田中には犯人の見当もついており、警察では解決不可能だと分かっていた。
　スマートフォンのメッセージアプリを使い、この事件を解決できる者に連絡を入れる。
　返事はすぐに届いた。
　夕方に、田中はその人物と会うことになった。

　放課後、ユリは街の外れにある喫茶店に足を運んだ。
　店内には静かな音楽が流れており、コーヒーの匂いも漂っている。
　ユリは店の奥の席に向かった。そこには1人のスーツ姿の男が座っていた。
　刑事の田中だ。

「こんにちは、田中さん」

　挨拶をして、田中の向かいに座るユリはコーヒーを注文した。
　田中はユリに写真を見せる。
　体内に血が残っていない女性の死体……それが写っている写真。
　田中はユリに死体の状態……体内に血が残っていないことなどを話す。

「俺としては、魔剣が犯人だと思うんだがね」

　運ばれてきたコーヒーに口に付けたユリは、

「死体の状態を聞いた限りだと、犯人は田中さんの言うとおりよ」

　そう田中に言う。
　ほのかな酸味があるコーヒーは、ユリの好みだ。

「犯人は魔剣ね」

「やはりな。なら、キミに頼みたい」

「分かっているわよ。魔剣を退治する……それが私のすることよ」

　人の負の想念が生み出す魔剣、それを退治するのが聖剣を持つユリの使命だ。
　魔剣が犯人だと思われる事件の解決……それも、ユリがやるべきことだ。

「魔剣ってやつは、警察じゃどうにもできん。いつも悪いが、頼むよ」

　田中は伝票を持って席を立ち、ユリの分も支払って喫茶店を後にした。
　1人残ったユリは、コーヒーを十分に味わうことにした。

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