美しい夫婦の歪んだ欲求 (Page 5)

「今日はありがとう。これはお礼だ」

 靴を履いていると、旦那さんは白い封筒を差し出した。

「そんな、受け取れません」

「いいんだ、ほんの気持ちだよ。受け取って」

 旦那さんは俺に封筒を握らせた。

 家を出る瞬間、振り返ると歩美さんはこちらを見て微笑んでいた。

 家に帰ってから湯船に浸かっていると、またつい小一時間前の興奮が蘇ってきて、洗い場で自らのものを扱いた。

 風呂から上がってから、旦那さんに渡された封筒の中を見てみると、そこには一万円札が三枚入っていた。

 

 その日から、彼らの屋敷のことを思い出さない日はなかった。

 けれど、受験を控えていた俺は、これ以上歩美さんにのめり込むのが怖かった。あえて帰り道を変えて、彼らの家の前を通らないようにした。

 歩美さんの舌の熱さを思い返しながら、自分のものを何度擦ったかは数え切れない。

 そんなふうに自分を慰めつつも、どうにか俺は第一志望校に合格した。

 その学校は実家からは飛行機で行かなければならないような距離にある学校だったので、一人暮らしをすることになった。

 引越しの前日、久しぶりに彼らの家の前を通ったけれど、カーテンは閉められていた。

 あの夜のことは夢だったのかもしれない。そう思うようになった。

 大学生になり、彼女ができた。初めてのセックスもした。フェラは歩美さんにされて以来だったのだけれど、初めてできた彼女の舌違いは拙く、歩美さんにされたときほどの気持ちよさはなかった。

 けれど俺は彼女のことが大好きだったので、彼女の下手くそな口淫さえも愛おしく感じた。それに、下手なのはお互いさまだ。

 俺たちは、壁の薄いワンルームで何度も何度も身体を重ねた。隣から壁を叩かれたことも一度や二度じゃない。そうするうちに、彼女はどんどん上達していった。その頃にはもう、歩美さんたちのことを思い出すこともあまりなくなっていた。

 卒業して以来、初めて実家に帰ったのは、成人式の日のことだった。

 成人式が終わり、同窓会が始まるまで時間があったので、一旦家に帰ろうと歩いていた。

 その道中で、歩美さんを見かけた。

 彼女は重たそうな大きなお腹をかばうようにしながら、ゆっくりと歩いていた。そのすぐ横には旦那さんがいて、ふたりで笑い合っていた。

 相変わらず、歩美さんは可愛らしかった。

(了)

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