愛する妻を触手でぐちゃぐちゃにした話 (Page 3)

「……そんなわけ、ないか」
 そんな彼女の切なそうな台詞を聞きながら、俺は今起こったことを振り返っていた。
 そして、改めて試そうと彼女の肩へ手を伸ばす。
「いやんっ!(え、なにっ? お湯っ?)」
 彼女の肩にお湯がザバリとかかり、彼女の身体から泡や彼女の独り遊びの名残を綺麗に流してしまう。
 同時に彼女の心の緊張と戸惑った声が流れ込んできていた。
 俺は自分が湯船の中のお湯になっていることを実感した。
 その上、彼女に触れることで彼女の心にまで触れられる。
 まるでどこかのアニメのように、スライムへ転生したようなものだ。
 そう考えると、浴槽の隅から隅に拡がっている自分を感じ、水を動かすコツが不意に分かったような気がした。
『真奈美、俺だよ。怖がらないで』
「? ヒデ、くん?」
 真奈美がハッとしたようにして顔をあげて、キョロキョロと頭を巡らした。
 湯船に手をかけて僅かに腰を浮かせ、狭い浴室の隅々に目を走らせる。
 俺は水面を揺らして、湯船を掴む彼女の指にお湯をかけた。
『真奈美。俺はここだよ』
「ヒデくんっ?」
 黒い瞳を大きく開いた彼女がまた俺の名を呼び、湯船の水面を真っ直ぐに見つめる。
 俺の気配を感じてくれたのだろう。
「ヒデくん? ヒデくん、帰ってきてくれたの?」
 彼女は湯船の縁に両手をかけて水面に顔を近づけ、底を見通すように目を凝らす。
 俺からすれば、鼻が触れるほどの距離だ。

 ぴちゃん、ちゅぷん

「っ!」
 お湯が彼女の薄い唇が濡れた途端、彼女の瞳孔が大きく開いた。
 ふわりと盛り上がった水面が彼女の唇に触れ、僅かに開いた唇の隙間から液体が潜り込んだからだろう。
「ん、んんんっ! んんふう(ヒデくん、ヒデくん!)」
 彼女は盛り上がった水面に顔を付けるように首を伸ばし、侵入してきた液体に舌を絡ませる。
 彼女の口内に入った液体に彼女の舌を押し返すほどの弾力を持たせた俺は、彼女の舌だけではなく歯茎や舌の裏なども味わった。
 彼女の唾液の懐かしい甘さに、愛しさが込み上げてくる。
「んんん、んふう、ふう、んっ! んふう」
 閉じた瞼を縁取る長い睫毛が小さく揺れ、艶のある吐息が漏れた。
 彼女から、縋るような想いが伝わってくる。
 真奈美は頭を右へ左へ傾けながら舌を蠢かせ、俺の水の舌にジュルジュルと吸い付いていた。
「(ヒデくん! ヒデくん、ヒデくん! ずっと待ってたっ!)」
 彼女の心が、ずっと俺の名を呼び続けている。

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