退魔師マコト (Page 3)

 とある大学の講義室。
 マコトはそこで講義を受けていた。
 魔物と戦い、そして倒すマコトだが、普段の顔は大学生であった。
 講義を受け、そして友だちと昨日見たドラマの話などをするマコトの姿は、どこにでもいる女子大生のものである。
 まさか彼女が人知れず魔物と戦っているなど、誰も想像できないことであろう。
 退魔師のマコトの姿は、そこにはなかった。

 

 夜の闇というものは、人に本能的な恐怖というものを抱かせる。
 闇の中に何か得体の知れないものが潜んでいるかもしれない……そんな思いを持ってしまう。
 家路についているその女性も、そんな思いを抱いていた。
 夜が生む闇の中から何かが飛び出てくるかもしれない、と。
 だからだろうか、歩くのが無意識のうちに速くなっていた。
 もう少しで明るくなっている区画に出られる。そこまで行けば、いま胸に抱いている本能的な恐怖は消えることだろう。
 あと少しで明るい区画に出るというところで、女性は足首に違和感を抱いた。
 歩くのを止め、足首に視線を向ける。

「なに、これ……?」

 足首には、何かが巻き付いていた。
 巻き付いているソレは、夜が生む闇の中から伸びている。
 ロープのように見えるが、ロープではない。ロープとは異なるもの。
 表面がヌメヌメとしており、生物的であった。
 ソレは、女性の脚を強くグイッと引っ張る。

「きゃあっ!」

 急に引っ張られたため、女性は姿勢を崩して転倒してしまう。
 女性を転倒させたソレ……触手とでも呼ぶべきものは、彼女を闇の中へと引きずり込む。
 ズルズルと闇の中に引きずり込まれた女性は、

「ひっ!」

 と短い悲鳴を上げた。
 夜が生む闇に、異形の怪物としか言いようのない存在がいた。魔物である。
 背中から多数の触手を生やした魔物。
 足首に巻き付いたのは、その触手の1本だ。
 背中に触手を生やす魔物はギラギラと光る赤い目を女性に向け、ニヤリとした笑みを浮かべる。
 鋭い牙がギラリと光った。
 女性が大きな悲鳴を上げそうになった瞬間、素早く伸びた触手が胸を貫く。女性の口から血がゴボリと音を立てて溢れる。
 魔物は彼女の足首に巻き付けた触手と胸を貫いた触手を縮め、自分の方に引き寄せた。
 そして、女性の首には魔物の牙が深く食い込んだ……。

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