45歳バツイチ男のモテキはラッキースケベから始まる。 (Page 3)
「はぁ!はぁ!はぁ!」
私は、必死になって早瀬さんを追った。全力疾走など何年ぶりだろう?足は上がらず、息も絶え絶え、太っているとは思っていなかったが、体の重さがもろに答える。
「は、早瀬さん!待って!」
姿は見えていても距離が縮まることは無く、私は声をあげた。
彼女が少し振り向いた様な気もするが、速度は変わらない。
体力の…げ、げんかい…。私はその場にへたり込んでしまった。
(もう少し…同年代の連中よりは体力があると思っていたのだけどな。)
40も過ぎて、通勤くらいしか運動と呼べることのしていない私には、20代の女性を追いかけるなど、あまりにも過酷なレースだった。
「新田さん!大丈夫ですか!?」
息を整える為に、アスファルトとにらめっこをしていた私に救いの声がかけられる。
「はぁ、はぁ、はやせさん…す、すまない。きを…わるく…しない…で。」
「と、とりあえず、どこか座れるところに行きましょう!」
私たちは近くの公園に入り、彼女が買ってくれた水を飲んで一息ついた。
「ふー、落ち着いたよ。申し訳ない…。」
「いえ…こちらこそ。約束の時間に遅れたり、その…変な所を見せたり…叩いちゃったり、無理に走らせたり…ごめんなさい。」
口に出して並べると、結構な被害者だな。
「あまり気にしないで下さい…遅刻したのにはなにか理由が?」
俯き加減で目を反らしながら、早瀬さんは言いにくそうに言葉を紡いだ。
「実は昨日、一人で飲み過ぎてしまって、起きて気が付いたら絶対に間に合わない時間で…。」
なるほど、そういう事だったのか。遅刻をするタイプには見えなかったからな。
「私…酔うと服を脱いで裸になっちゃうみたいで…。慌てて服を着たからそのまま出てきちゃったんです。ははっ、ドジですよね。」
そう言って笑う彼女は、どことなく疲れが出ているような気がする。先程の全力疾走だけでなく、どことなく覇気を感じられないのだ。よく見ると目の下にクマもできている。
今更、会社に戻るのも…と思い、私は部長に頼まれたことを彼女に伝え、取引先との今の関係を聞いてみた。
「―――これは、立派なパワハラですね。」
『立派なパワハラ』…表現としては、おかしいかもしれないが、彼女の用意した証拠の品々を見てしまっては、そう口に出さざるを得ないほどのテンプレート的な出来事だった。
取引先との関係を悪くしてしまったと聞いていたが、実際は相手側からの執拗なセクハラパワハラ案件だったのだ。彼女はすでに退職も考えており、そのための計画も立てていた。
時代の流れで、社内でのセクハラへの監視が厳しくなった結果、他社の女性社員への態度が酷くなるという悪循環の結果である。
「わかった…あとは私が報告しておこう。今日は早退しなさい。ここまで証拠が揃っていて早瀬くんが無理に出勤する理由はない。」
「え?…でも…これは私の問題ですから。聞いていただけただけでも満足ですし。」
先ほどの彼女に対する違和感…普段周りの人間を支えるタイプの人間が、被害者とはいえ誰かを告発しようとしていたのだ。
悪口や告げ口などもしたことも無いであろう彼女に掛かるストレスは、彼女の普段の生活にも悪影響を与えてしまっていたのだろう。
「早瀬さんのような優秀な人が、会社を辞めるほど思い込んではいけない。寝坊するくらいの深酒なのだろう?普段飲まない酒に溺れる辛さはわかっているつもりだ。」
酔って脱いでしまうと言っていたが、元々アルコールに弱い体質なのだろう。早瀬さんは、飲みの席でもほとんどアルコールを口にしていなかったはずだ。
私にも離婚した当初には酒に頼るしかない時期があった…。そんな経験が、今の彼女に重なったのかもしれない。
「さぁ、あとは任せて帰りなさい…その、下着のこともあるだろうし。」
「あ…そ!そうでしたね!」
早瀬さんは、スカートを抑えながら答える。下着をつけていないと分かっているせいか、腰や太もものラインが妙に艶めかしく見えてしまう。
「じゃ、じゃあ…お任せします。最後までご迷惑をかけてごめんなさい。」
彼女から資料を受け取り、スカートの中…気を付けてと、一言念を押しながら彼女を見送り、姿が見えなくなったことを確認すると、私は相手の会社へと向かった。
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